20020831 - 現実は小説よりも奇也 -


20:32

家の中が慌しくなる。

何事か、と親父に尋ねると、「近所の人が行方不明になって暫く経つので、これから捜索の打ち合わせに移る」らしい。

へぇ、と受け流し、キーボードを叩く。


20:44

親父が家に駆け入って来る。

どうした?と尋ねると、「死体が見つかった」らしい。

MS、チャットをROMにし、「手伝い」という名目で見物に行くことに。


20:46

場所は、自宅から歩いて1分の橋の袂。

橋に近付くと、人間の腐臭が鼻を突く。

橋から下を見ると、そこには作業服を纏った男性の死体が横たわっていた。

仰向けになり、左手で胸部を押さえ、足を蟹股に開いていた。

ここまではまだ良いとする。

問題は死体の「状況」である。

夏場という事も在り、随分と腐乱が進んでいた。

具体的には、筋肉が緩み、内臓が全て下腹部に垂れ、卵でも孕んだかのように膨らんでいた。

おまけに、下腹部の皮膚は黒く干上がり、黴に覆われていた。

そして頭部。

無かった。

頭が在るべき場所に、頭と認識できるものが無かった。

「よもや事故では無いかも知れぬ…」

一帯に戦慄が走る。


21:03

警察が到着。

現場検証に入る。

すぐに、頭部が見つかった。

なんと、何処にも行っていなかった。そこにあったのだ。

ただ、それは「頭部」とは呼べても「顔」とは呼べ無いしろものであった。

まるで縦に切り落とされたかのような形状。

脳、骨が見えるほど、というよりは、皮膚が全く無くなっていた。

かといって、その下に在る筈の肉もない。

「動物に食われたのでは」という説が近所の人から上がり始める。

 

後の現場検証で、どうやら死体の上に在った木の枝を切ろうとして、誤って転落したものとほぼ断定。

ドラマのような事情聴取が暫し続く。


21:55

警察が遺体を引き上げる作業を始める。

まず取り出したのは、殺虫剤。

蛆と蝿が沸き、作業どころでは無いらしい。


22:04

ついに遺体を動かす。

肩を持ち、ぐい、と立ち上げようとすると、首がだらしなく後ろに垂れた

そのまま動き出すのではないか、というバーチャル世代の思考も否めないほど、生々しいものだった。

一気に腐臭が辺りに満ちる。


22:08

遺体袋への収容が完了。

続いて、遺体が在った場所の検証に移る。

 

黒い布状のものを警察がつまみ上げる。

それは帽子だった。

黒い筈の表面は、腐った頭皮とそれに集った蛆で白く汚れていた。


22:45

全工程が終了。

各自線香をあげ、自宅へ戻る。