二月

                   節分

  豆まき。大豆を囲炉裏で炒(い)る。炒った豆を一升ますに入れて神棚へ供える。また、いわしを二つに切って、二またの木の枝にさす。これに唾液を吹きかけながら焼いて、玄関の高いところへさしておく。魔除けである。

 夕食後、年男が神棚から大豆の入ったますを下げ、先ず、神棚へ向かって「福は内、福は内」と二度叫んで豆をまく。家の中の戸、障子を開けて「鬼は外、鬼は外」と叫ぶ。どの家でも負けじと声を振りしぼって叫ぶので、谷間の集落は一ときにぎやかだ。まかれた豆は家族全員で拾う。そして各々が年の数だけ食べる。残りは半紙に包んで紅白の水引くきで結わえて神棚につるして置き、その年最初の雷が鳴ったら食べることにきまっていた。多分雷除けであろう。

 また、隣近所の主婦が集まってご馳走をつくって食べる行事があった。「お日待ち」と言ったが、厳しい寒さも峠を越えたとはいえ春はまだ遠い。春を待つささやかな憩いであった。母が裁縫の師匠をしていたころには、針供養をしたのも二月だった。

 一月のように休日はないが、雪に閉ざされて外仕事はできない日が多い。そんな時は、もっぱら藁(わら)で収穫した穀物を干す「ねこ」(むしろの大きいもの)を作ったり、農機具の柄(え)を作る大工仕事等いくらでもあるが、家の中の作業だ。人の出入りもあって炉端で四方山(よもやま)話に花を咲かせる。とにかく農家には仕事は際限なくある。やればきりがない。