「先輩…」
「『骸』か…!こんなまっ昼間に!」
「先輩、燈牙さんが,明華さんが!」
「解ってる!御前は、隠念のところへ行け!こんな時間に現れるとは,ただもんじゃない!」
如月は,言い終えぬ内に走り出していた。速後
「僕は,彼に加勢しよう」
ジークが、円に言った。円は,思わぬ戦力に喜び、
「有難うございます!」
大きく声をあげ,走り出した。
ジークは、つむじのあたりをぽりぽりと掻き、
「予想外の展開だな…」
小さく呟いた。
如月が辿り着いた時、燈牙の家は,木片の山と成り果てていた。代わりにそこには,長屋ほどの蛙がしゃがみ込んでいた。真っ青な皮膚、黄色い目玉、紫色の斑点、時折口から見
える舌は長く,赤い。更に口からは,ただならぬ異臭が漂っている。それが,異形に輪をかけ、周囲の人間への恐怖に変わる。
無論、周りはパニック状態に陥っていた。人々は逃げまとい、それが新たなパニックを生む。
如月は当然,我が目を疑った。つい先ほどまで,喉かで穏やかだった街が、見る影も無くなっている。
「く…!」
「加勢するよ,ミスター如月」
戦闘体制を取った如月に、ジークが話し掛けた。しかし興奮した如月は
「足手まといだ!御前も逃げろ!」
「冗談,団子の御礼も残ってるし、な」
「…ッ、好きにしろ!」
如月が走る。
「そうこなくっちゃ」
口笛を一つ吹いて言うジーク。
『蛙』は、彼ら二人の殺気に感づいた。そして正面から走ってくる如月に,異臭を伴った息を吐きかける。
それに気付いた如月は、『蛙』の足元に爆弾を五,六個投げつけ、大きく後ろに飛び,距離を取った。
「『土龍(どりゅう)発破』!」
如月の叫びと同時に、先ほどの爆弾が轟音を上げ、火柱を上げた。『蛙』の巨体はそれに包まれ、うめきをあげる。
しかし。
同時に、先ほどの息が爆発する。勿論そんな事を予想していなかった如月は,その爆風にもろに吹き飛ばされた。
「がっ!」
向かいの家の壁に叩きつけられた如月は,小さくうめきを上げた。
その様子を見ていたジークは,隣に飛んできた如月に言葉を投げた。
「この匂い…あの息は硫黄だな。むやみに火を近づけない方がいい」
「くそっ…!」
「ここは,僕の槍術に任せたまえ」
自信満万にジークは言った。
「…死ぬなよ」
「御忠告、感謝しておくよ」
にこやかな笑みを残し、ジークが走る。
迅い。
皮膚の所々に火傷を負った『蛙』の眉間に、ジークの振り下ろした槍が叩き込まれる。
「YEAH!」
歓喜の叫びを上げるジーク。彼の甲冑は,『蛙』の返り血を浴びて青く染まる。
が。
「何?!」
血を浴びた甲冑が,見る見る溶けてゆく。酸を含んでいたのだ。
「ふざけやがって!」
棄て台詞と共に、ジークは距離を取った。
如月の隣まで。
共に戦う者がいる,という事実は、彼等の精神を随分と楽にしたようだ。
『蛙』は,その様をじっくり見ていた。半ばあざ笑うかのように。
「厄介だな。此方から仕掛ければカウンターが待っている,って寸法か」
「かうんたぁ?」
「反撃ってこった」
如月が,小さく舌打ちをする。それがジークには聞こえたらしい。
「ひがむなよ。今は,あの『デーモン』を倒すのが先だ…あ、『デーモン』ってのは」
「『骸』、だろ?」
「をぉ、伝わったか」
二人が,小さく笑う。その様が,『蛙』には愚弄に感じ取れたらしい。
ぐおおおおおおあああああああああ
殺気を剥き出しにし,唸る『蛙』。
唸りと同時に大きく開かれた緑色の口内は、それは毒々しく見えた。が、如月には,それが突破口のヒントに見えようとは。
「おい、御前の槍で、奴の口を閉じることはできるか?」
「造作もないことだ」
「俺が合図したら,やってくれ。」
「フン,大丈夫なんだろうな?浅はかな猿知恵じゃないのか?」
「駄目だったら,この腹掻っ捌いてやる」
「言うね〜」
ジークは,大きく口をあけて笑った。
「それでこそ『SAMURAI』だ」
「……………違うぞ」
如月の突っ込みを背中に受けて,ジークが走る。『蛙』は口を大きく開き,舌を伸ばして彼を丸のみにしようとする。
が、そこは熟練された騎士。舌を槍で切り上げ、裂く。
苦痛に蠢く『蛙』の口は,大きく開かれた状態で止まる。
そこに,如月の爆弾が投げ込まれる。それは喉の奥まで、更に腹まで届いた。
「ジーク!」
「おう!」
言う如月に,答えるジーク。ジークは高く飛び、槍は『蛙』の唇を貫き、その先端は大地に刺さる。
刹那、『蛙』の腹が弾ける。如月の放った爆弾が、腹の中に充満していた硫黄と大爆発を起こしたのだ。
無論,『蛙』は一瞬でこと切れる。逃げ遅れたジークは大きく吹き飛ばされたが、綺麗に回転して着地。如月は,少し強い風に吹かれた,という程度の衝撃しか受けなかった。
かくして。
忍者と騎士によって,一匹の『骸』が駆除された。